第37回東京国際映画祭でナンニ・モレッティ監督特集が行われ、最新作「チネチッタで会いましょう」(2023)と旧作「赤いシュート」(1989)「親愛なる日記」(1993)の全3本を上映。その後のトークイベントで、深田晃司監督、三島有紀子監督、岡本太郎氏がモレッティの魅力を語った。
「渕に立つ」がカンヌ映画祭で受賞するなど世界的評価の高い深田晃司監督は、「モレッティ監督作品はとても好きですね。始めて衝撃を受けたのは『息子の部屋』なんですが、映画史上稀に見る美しいエンディングだと思いました。自分にとってイタリア映画というのは特別で、凄いという感覚を持っているのですが、昨今のイタリア映画を見るとセンチメンタルだったりウェルメイドというイメージがあって。だけどフェリーニ監督作とか古典はどこかでドライだったり、それが現代のイタリア映画には無くなってしまっていたと感じていた時に、モレッティ監督の作品を観てこれだ!って思ったんです。ナンニ・モレッティの人間への距離感が現代的だから、いつまで経っても古びない。何かに従属してない映像って素晴らしいなと思いました」と称賛。
自作「一月の声に歓びを刻め」にトト・モレッティと名乗る人物を登場させるほどのモレッティアーノ(=モレッティの熱狂的なファン)である三島有紀子監督は、「モレッティの映画は、存分に知的で人間的にクレイジーだけど魅力的で、明るい未来や希望を感じさせてくれる。本作では映画監督としてだけでなく人間としても傷ついた瞬間を切り取っているなと思いました。ダンスシーンは、誰かに見せるための踊りではなく、誰かと一緒にリズムを刻んでいくコミュニケーションとしての踊りですよね」「モレッティは『自分は映画の力を信じている』と発言していましたが、私もそう思っています。『チネチッタで会いましょう』は幸福感に満ちた映画です」と語る。
イタリア映画祭の立ち上げに携わり、モレッティと交流のあるイタリア研究者の岡本太郎氏は、「何回かお会いしていますが、エキセントリックで映画のままな人。モレッティの映画の面白さは、筋通りに観客を引っ張っていく手法ではなく、色んな矛盾や一言で説明できないことが沢山あるところ。迷うことが正しいという過程を描いているのです。シンプルに伝えたいけど伝えられなかったり、いろんな考えがあることは大事だと気づかされます。収まりきらないものを収まりきらずに見せることで世界の形を表現することができる」と掘り下げた。
また、「チネチッタで会いましょう」が11月22日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国で公開されるのを前に、著名人のコメントも到着した。
こんなにも待ち遠しく、観終わった後、明るく幸せな未来を感じる映画は久しぶりだ。
ナンニ・モレッティ監督の映画はいつも辛辣で可笑しい。
しかも今回は映画監督の話であり夫婦の話であり、世界の話だ。面白くないわけがない。
物語のラストに、子供のようにくるくると回り始めるシーンがある。
監督もスタッフも役者たちも。主人公と共にわたしも【映画で物語を描き直すという飛躍】に救われた。
観客のみなさまもきっと劇場を出る時には、心がくるくると回り始めるに違いない。
──三島有紀子(映画監督)
社会を鋭く観察、映画と人生を語り続けるモレッティ。
ローマとチネチッタを舞台に、ズレて、こんがらがった状況をイタリア人ならではの粘り強さとで切り抜けようとする。
笑い、戸惑い、諦念、そして最後は幸せになれるか? これは見逃せない!
──宮嶋勲(ジャーナリスト「最後はなぜかうまくいくイタリア人」著者)
映画をコントロールしようとすればするほど、人生が制御不能になっていく監督。
こだわりや執着よりも「手放す」ことの大切さを教えてくれる作品です
──辛酸なめ子(漫画家・コラムニスト)
ジョヴァンニ、わがまま過ぎやしませんか?
長く映画界を生きてきた監督の、頭の中そのものみたいなパレードシーンはもう、拍手を送るしかありませんでした!
──大九明子(映画監督)
にっちもさっちも行かなくなると、古い日記を開いてみる。新聞の切り抜きやコンサートの半券、怒っている字。
甘さや酸っぱさが重なる。
「チネチッタで会いましょう」は、ミルフィーユのようなイタリアへの招待だ。
──内田洋子(ジャーナリスト)
ほぼ同年代の私にはちょっとした清涼感のあるいい映画だった。
──和田秀樹(精神科医)
Story
5年に1本のペースで映画を撮り続けてきた監督のジョヴァンニ。プロデューサーでもある妻に支えられ、頭の中は新作のアイディアでいっぱい、完璧な日々だと思っていた。ところが自分は世間や家族の気持ちからズレていたと気づかされる。
妻に別れを切り出され、フランス人のプロデューサーが詐欺師と判明したことで映画製作は中断。ついには妻がプロデュースする映画に難癖をつけて撮影を一晩とめてしまい、Netflixを頼ってみるものの脚本にダメ出しされる。失意のジョヴァンニがやがて見つける大切なものとは?
© 2023 Sacher Film–Fandango–Le Pacte–France 3Cinéma
配給:チャイルド・フィルム