映画『クラブゼロ』の公開を記念して行われた今回のトークイベント。第一弾には、ライター・イラストレーター・漫画家として活動する傍ら、配信者としても活躍中の村田らむ、そしてGANG PARADEの元メンバーで映画コラムニストの寺嶋夕賀が登壇した。
「意識的な食事」という独自の健康法を説く栄養学の教師ノヴァク(ミア・ワシコウスカ)と、彼女の健康法にのめり込んでいく生徒たちの姿が描かれる本作。12月6日(金)に劇場公開を迎え、SNSではすでに「えげつないよ、この映画」「現実にも起こりうることだからこそ、観ていてとても怖かった」「先生の教えにじわじわと洗脳されて信者となる生徒たちに狂気を感じる。思った以上にリアリティのある恐怖」といった口コミも続出中。
物議を醸すテーマと衝撃の展開で早くも話題を集めているが、ゲストとして招かれた両者はまずは本作の感想について、「映画を観る時は何も情報を入れずに観ることが多いんです。本作でもあえて何も情報を入れずに見たのですが、最初はドキュメンタリーのようなリアルさにドキドキするところはありましたね」(村田)、「私も村田さんと同様に情報を入れずに観るタイプなんですが、この可愛らしいビジュアルからポップな物語を想像していたので詐欺にあったような気分です(笑)。観ていて自分が許容できない気持ち悪さがあって、すごく新鮮な映画でした」(寺嶋)とそれぞれに率直な印象を振り返っていた。
まずはこれまでの有名な宗教団体への潜入実績を振り返りながら、「意外と(宗教団体に)気軽に入れてしまうので、“どうして入りたいの?”って理由を聞かれることが多いんですが、“ちょっと悩みがあって……”と言うと大抵、“修行やっちゃう? 悩みなんてなくなっちゃうよ”みたいな感じで始まりますね。明るい感じで」と意外な裏側を披露する村田。本作では栄養学の教師ノヴァクが「意識的な食事」と呼ばれる健康法を説き、生徒たちの食事量を極端に減らしていき不食へと導いていく姿が描かれるが、村田は「宗教団体には、基本的に食べないようにするところが多いんですよね。結構どの団体も食べ物を縛ることが多いので、そういう点でも仲間意識ができてくるというのはありますよ。“自分たちは他の人間と1つ次元の高いところにいるんだ”という感じでしょうか」 とカルトとの共通点を指摘。さらに村田は、奨学金のために栄養学の授業を履修した生徒・ベンを挙げ、「(ベンは)最初は意識的な食事を行うことを嫌がり自分の好きなものを食べていたと思いますが、ああいう人って結構いるんです。“俺が見破ってやる!”とか、そういう気持ちで入ってくる人も多かったりするものなんですが、宗教団体のほうはそんなの百戦錬磨なので。討論になって説き伏せられると、ベンのように真面目な人は洗脳されてしまうので危険なんですよね」と説明していた。劇中では、意識的な食事にのめり込んでいくベンとは対照的に、過激を極める健康法に疑問を感じ離れていく生徒の姿も描かれるが、村田は「あのタイミングで抜けないと、もう逃げられなくなってしまうんですよね」と言う。「マルチビジネスや新興宗教でも、勧誘をさせられるようになるんですね。自分が好き勝手に食べないで死のうが誰にも迷惑をかけることはないと思いますが、この行為の根底にはこの思想を広げていこうという思惑があるんです。宗教団体にはそのような思惑が大前提にあるので、周囲の人間が次第に離れていく。するとそこでしか友達がいなくなってしまって、抜けられない状態になっていきます」と話し、本作でも「(健康法にのめり込む生徒)5人だけの世界みたいになってしまうと、もう抜けられなくなって居場所がそこにしか無くなってしまいますよね」と無垢な生徒たちが過激な健康法にのめり込んでいく理由を分析していた。
そんな村田の話に興味深い様子で耳を傾けていた寺嶋は、そんな子どもたちの変化に気づかない親の姿が描かれていることについて触れ、「カルト団体だと親から子へ2世に渡って教えていくイメージも強いんですが、親まで洗脳される可能性はあるんですか?」という質問が。村田は「親から子に教えていくパターンはめちゃくちゃ多いですよね。(宗教団体にいる)他の子は病んでいたり悩んでいる子が多い中、2世の子は生まれた時からそのような環境にいるので、逆にのびのびと暮らしていますよね。某宗教団体に潜入していた時に出会った若くて爽やかな2世の男の子とかは、学校で出会った女の子をナンパして(宗教団体に)連れてきちゃう、みたいなこともしていましたよね」と目撃談を告白。「子どもがハマる場合は、親が(宗教団体から)出してあげようとか、自分も理解してあげようみたいな目的で入って、余計に拗れるパターンもありますけどね」と危険性についても触れていた。そんな村田の話を受け、「子どもが(宗教団体に友達を)連れてきてしまうのは、その環境の中で自分の常識ができてしまっているから、悪意はなく純粋無垢なものですよね。本作でもノヴァク先生みたいに本当に信じているものがあるから、それを広めたいという純粋な想いですよね」と複雑さを説明する寺嶋。村田も「この作品のヤバいところは、先生が“善”を信じているタイプだというところ。意外と思われるかもしれませんが、新興宗教にいる人は大抵みんな良い人なんですよ。優しくて親切で、他人の気持ちが分かるような人。本気で“世界が良くなってほしい”と思っているような人が、実は一番ヤバいことをしでかすというのが、カルトのヤバいところなんですよね」と熱弁していた。
さらに寺嶋は映画で描かれる各家庭の貧富の格差に触れながら、「苦しい家庭でも裕福な家庭でも、みんな満ち足りていないところがありましたよね。そういう人の方がハマりやすいのかなと思いました」と口にすると、村田は「ぼんやりとした不安感や不満感というのは、簡単には癒されないものがありますよね」と頷く村田。「みんなが栄養学の授業を履修していた理由が、少し意識の高いようなこと。それぞれの生徒にリベラルっぽいような、自己表現がちゃんとできるような子たちだったからこそ、さらにハマっていっちゃったのかな」(寺嶋)と印象を明かしていた。
自身の経験談をもとに鋭い視点で本作の魅力を噛み砕いて説明する村田だが、イベントではこれまで数多くのアングラな現場に足を運び攻めに攻めた取材を行ってきた村田が、“これはさすがにヤバい”と感じたカルト宗教についての話題に。
村田は「某宗教団体に入った時に、修行を夜までしていて、週末とかだと勉強会などもあったんですが……」と切り出し、「ある日の勉強会の時に、突然、“〇〇が死んだよ”みたいな話から始まって。どうやら他の信者の人が亡くなってしまったと。僕も場の空気を読んで悲しい顔を浮かべていたら、他の人たちがニヤニヤしたり笑い出したりしていて。そしたら出家信者の方が、“あいつね、全然修行しなかったからね。死んで当たり前だし、もう人間には生まれ変われないよ”と言っていて。僕もずっと潜入しているとその空間に慣れてくるんですが、怖っ!て思いましたね、やっぱりカルトだなと」とリアルな実体験を暴露。さらに本作についても、「不食を勧めてその人が亡くなってしまったりすると、その後もし洗脳が解けたとしても、自分のせいでこの人を殺してしまったのかもしれないという一生の後悔が残りますよね。だからこそ怖いというのもありますよね」とプロだからこその目線で、本作で描かれる物語の恐ろしさを語っていた。
また、12月12日(木)には、公開記念トークイベント第二弾が開催予定。平山夢明(作家)/高橋ヨシキ(映画評論家・アートディレクター・サタニスト)をゲストに招き、本作の“ハマるとヤバい”魅力を語り尽くす予定となっている。チケットの購入は、オンライン予約サイトから受付中のため、こちらもお見逃しなく!『クラブゼロ』は2024年12月6日(金)より新宿武蔵野館ほか全国で公開
脚本・監督:ジェシカ・ハウスナー
出演:ミア・ワシコウスカ
配給:クロックワークス
© COOP99, CLUB ZERO LTD., ESSENTIAL FILMS, PARISIENNE DE PRODUCTION, PALOMA PRODUCTIONS, BRITISH BROADCASTING CORPORATION, ARTE FRANCE CINÉMA 2023