『本心』の公開御礼舞台挨拶が11月20日(水)にTOHOシネマズ日比谷で行われ、 池松壮亮(石川朔也役)、三吉彩花(三好彩花役)、仲野太賀(イフィー役)が登壇した。
日本映画界屈指の鬼才・石井裕也監督の最新作『本心』。原作は、映画化も話題となった「ある男」の平野啓一郎による傑作長編小説「本心」。キャストには、近年ますます活動領域を拡張している俳優・池松壮亮を主演に迎え、三吉彩花、水上恒司、仲野太賀、田中泯、綾野剛、妻夫木聡、田中裕子ら、日本の映画界を牽引する豪華実力派俳優陣が集結。これまで映画・ドラマを合わせ8作品の石井監督作品に出演している池松が、原作を読み「今描かれるべき作品」として全幅の信頼を寄せる石井監督に企画を持ち込んだ、9作目のタッグ作となっている。舞台は、今からさらにデジタル化が進んだ少し先の将来。亡くなった母親の“本心”を知ろうとしたことから、進化する時代を彷徨う青年を映し出す、革新的なヒューマンミステリー。
池松と仲野が公の場で顔を合わせるのは、NHKの大河ドラマ『豊臣兄弟!』の記者会見以来。一方、仲野と三吉彩花が顔を合わせるのは昨年夏の撮影以来となった。仲野が本作の撮影に参加したのはわずか2日間だったが、その濃密な撮影について尋ねられると、池松は「現場はバッチバチでしたね。まるで豊臣兄弟で三吉さんを取り合うみたいな感じでした」と冗談交じりに語り、三吉も「私のためにケンカしないで」と応じて、会場は笑いに包まれた。
その後、気を取り直して仲野が撮影の2日間について振り返り、「基本的に穏やかな雰囲気でしたが、池松さんや三吉さんが現場でどのように過ごしているのかわからなかったので、とにかく邪魔をしないように、目立たずに粛々と撮影に取り組んでいました」と控えめに語った。
池松は、仲野が作品に参加したことについて、「石井組の撮影現場に彼が加わったことで和やかな雰囲気になり、特に仲野と共演した日は一番楽しかった」と語った。緊張感が漂う撮影現場であったが、仲野との共演シーンでは心が和らぎ、その後の食事では撮影中唯一リラックスできた瞬間を過ごしたという。
また、三吉も、「監督や池松さんにとっても、仲野さんの存在は安心感をもたらしていたようで、現場が明るくなったのが分かりました」と語った。このような称賛を受けた仲野太賀は、「今日ここに来てよかったです」と笑顔を見せた。
撮影本番では、仲野太賀が演じたアバターデザイナーのイフィー役が強い印象を残したようだ。共演した三吉は、イフィーのキャラクターについて「ミステリアスで不気味さを感じさせる役でした。特に『ご飯を食べよう』というシーンでは、テーブルの反射に映る姿があまりにも怖くて、一生不気味だなと思いました」と振り返り、本心から恐怖を覚えたことを明かした。また、池松壮亮は、このシーンでの仲野の演技について「2~3分ほど自由にカメラを回していたのですが、彼はずっと肉にレモンをかけていました」と撮影の裏話を披露した。
さらに、池松は仲野のキャスティングについて「イフィー役を誰にするかという話で、石井監督の中に『困ったときの太賀』という選択肢があったようで、途中で役も変わったんです」と語った。これに対し、仲野自身もキャスティングの経緯を振り返り、「はっきりとした役が決まらないまま、スケジュールも台本も曖昧な状況で、池松くんから『どうやら出るらしい』と聞いてようやく出演を確信しました。イフィーを演じることが直前に決まったので、正直不安も大きかったです」と述べた。
また、仲野は役柄について「イフィーは非常につかみどころがなく、朔也(池松の役)とは全く違う人間でありながら、どこか共通するものが根底にあるキャラクター。バランスを取るのが難しく、挑戦的な役どころでした」と語り、自身にとっても特別な挑戦だったことを明かした。
仲野は、完成した映画のお気に入りのシーンについて質問されると、突如、自身が出演した公開中の別作品『十一人の賊軍』の話題を持ち出し、「山田孝之さんと千原せいじさんが」と冗談を交えたコメントをした。しかし、池松壮亮から「あんまりウケてないよ。真面目に答えて」と冷静に突っ込まれ、会場は笑いに包まれた。この冗談は池松が仲野に勧めたものだったというエピソードも明かされた。
その後、仲野は改めて本作の印象的なシーンについて語り、「序盤で、妻夫木聡さんや綾野剛さんが登場し、朔也(池松の役)がVF(ヴァーチャル・フィギュア)という存在を初めて知っていく過程が描かれる場面が印象に残っています。その中で、田中裕子さん演じる朔也の母親も登場し、最後に池松さんが複雑な感情を抱える表情を見せる一連の流れが特に好きです」と述べた。さらに、「錚々たる俳優陣による、これまで見たことのない芝居が連続し、最後に池松さんの全てを受け入れきれない表情が強烈に残っています」と、シーンへの思いを熱く語った。
池松壮亮は、本作の印象的なシーンについて「最終日に、妻夫木聡さん、綾野剛さん、田中裕子さんとの共演シーンを1日で撮影しました。この3人と一緒に芝居ができるのは本当に幸せなことで、ラッキーだと感じました。彼らのお芝居を特等席で見られたのは、朔也という役を演じた私の特権だったと思います」と満足げな表情で振り返った。
仲野は、本作で見た「新しい池松さん」について問われ、「この作品に取り組むにあたって、クランクイン前から壮亮くんや石井監督から制作の経緯や作品への思いを聞いていました。そのため、壮亮くんの映画に懸ける覚悟や気迫が、普段とは一回りも二回りも違うものに感じられました」と述べた。さらに、「普段はバラエティ番組などに出演しない池松さんが、本作では多くの宣伝活動にも取り組んでいて、その覚悟を強く感じました」と池松の姿勢を評価した。
池松は、「自分ではよくわからないですけど」と照れた表情を浮かべながら、「ふと思い出したんですが、石井監督にこの企画の話をした直後に、太賀にも話していて、太賀もすぐに原作小説を読んでくれましたよね?」と語り、本企画の初期段階から盟友である仲野太賀と共有していたことを明かした。このエピソードから、池松と仲野の深い絆がうかがえた。
また、映画のストーリーにちなみ、企画者のひとりであり主演を務めた池松の「本当の姿」について問われた三吉は、「こんなにも丁寧な座長がいるのかと思うくらい、すごい方です。現場でも全ての人に気を配っていて、常に周囲への配慮を欠かさない姿が印象的でした」と称賛の言葉を述べた。そして、「1回も『性格悪そうだな』と思う場面がなく、ちょっと悔しいというか、ネタにできるようなエピソードを引き出せなかったです(笑)」とユーモアを交えてその人柄を評価した。
一方で、仲野は池松の知られざる上京エピソードを披露。「壮亮くんは俳優一筋で、誰もが認める素晴らしい俳優ですが、たしか上京してきたとき、ギター1本だけ持ってきたんですよね?なぜかギターだけという、まるで尾崎豊みたいなエピソードで(笑)」と語り、会場を笑わせた。
池松はその理由について尋ねられると、「ひとり暮らしを始めるなら、やっぱりギターかなと思って…(笑)」と説明。しかし、仲野は「こんな“俳優一筋”の人が、ギター1本だけ持って上京したというのが面白い!」と笑いを重ねた。さらに池松は、「いまだに弾けなくて…」と苦笑しながら告白した。
その場にいた三吉も「なんで持ってきたの?」と問い、池松は「触るのは太賀くらい 彼は上手なんですよ。でも僕は弾けないんです」と申し訳なさそうに返答。これに三吉は「どういうこと?不思議な2人ですね」と笑顔を浮かべ、温かい雰囲気のやり取りとなった。
その後、3人は観客からの質問に答えるコーナーに移り、和やかな雰囲気が続いた。この中で、仲野は客席で「太賀」と書かれたプレートを掲げるファンの女性を指し、「姉です」と発言。しかし直後に「嘘です」と訂正し、三吉が「本当にヤバすぎ」とあきれた表情でツッコミを入れる一幕があり、会場は笑いに包まれた。
最後に池松は、「自分たちの幸福や、大切な方の幸福、そしてこれからの時代における幸福について考えるきっかけになれば嬉しいです」と本作に込めた思いを語った。さらに、思い出したように「『十一人の賊軍』もよかったらぜひ観てください!」と冗談を交え、舞台挨拶は温かい雰囲気の中で幕を閉じた。