「うまれる」という短編映画は、山形国際ムービーフェスティバル2021で観客賞や審査委員特別賞など、国内外の映画祭で13の賞を受賞しました。そのため、映画は6月23日(金)からテアトル新宿をはじめとする全国各地で順次公開されることになりました。
公開初日には、主演の安藤瞳さんと共演の渋谷はるかさん、そして監督の田中聡さんがテアトル新宿に登壇し、舞台挨拶が行われました。舞台挨拶では、作品についての感想や裏話などが語られ、観客たちは熱心に耳を傾けました。
本作は、女性7人による演劇ユニット「On7(オンナナ)」が企画したもので、安藤さんと渋谷さんも参加していました。渋谷さんによれば、演劇公演が中止になる状況の中で、元気の出る企画が欲しいという話から始まったと説明しています。渋谷さんは田中監督に短編ブラックコメディの作品をオファーしましたが、その結果は予想とは異なり、いじめで娘を亡くした母親による復讐劇でした。
田中監督は通常はCMディレクターとして活動しているが、ゴリッとした作品を作りたいと思っており、このオファーを快く引き受けました。いじめによる復讐をテーマにしたのは、ニュースでいじめ事件を見るたびに、自分も親である立場から考えてしまったからだそうです。また、On7が女性7人であることから、お母さんの役を演じてもらえるのではないかと思い、このような企画が生まれたと振り返っています。
安藤さんは最初に企画を見た際に驚き、本来のコメディ路線から一変した作品になったことに衝撃を受けたと述べています。彼女は最初の顔合わせで即興で親たちの会議のシーンを演じ、そのままの印象が映画に反映されたと語っています。
渋谷さんは特に印象的だったシーンとして、母親たちが集まるシーンで教師が最初に逃げ出す描写を挙げています。この描写について、田中監督は実際のいじめ事件への対応で感じた学校や教師への不信感が反映されたものであると述べています。彼はこのような描写を通じて、子どもたちに対してより良いケアをする必要性を訴えたいと思っていたと話しています。
安藤さんは、「最初にこのテーマでやることを決め、On7の7人で監督の前で即興で親たちの会議のシーンを演じ、キャストを決めることにしました。そこで引いたクジで私のクジに○がつき、いじめられた子の親役となりました。それがそのまま映画に反映されたんです。」と述べています。田中監督も「クジも運命的だったし、最初の即興がすごく印象的で、その後いくつかの変更を試みましたが、最初の印象を活かしたかったのでそのままにしました。」と話し、安藤さんも「運命的だったし、映画で懐かしい感じがしました。」と同意しています。
一方、渋谷さんは印象的なシーンとして、「母親たちが集まっているシーンで、先生が最初に逃げる描写が凄惨で強烈なインパクトがありました。」と語っています。田中監督はこの描写について、「実際のいじめ事件で学校や教師の対応に対する不信感を感じたことから、この描写をしたかったんです。子どもたちに対してもっと適切なケアをする必要性を訴えたかったんです。」と強調しています。
また、田中監督は撮影中のエピソードとして、安藤さんが子どもたちを威嚇するシーンでの読み合わせの際に子どもたちからどんなセリフを言われたかを尋ねます。安藤さんは「『もっと怖くしてください。じゃないと泣けないんです。』と言われました」と笑いながら明かし、田中監督は子どもたちの役者魂を称賛しています。
また、田中監督は血糊を使った撮影のエピソードにも触れ、「教室で血がブシャブシャと出るシーンで、特殊メイクさんに『教室で大丈夫?』と聞いたら、『大丈夫ですよ。ハイターをかければ消えるんで』と言われたんですが、終わって拭いたら全く消えなくて…(苦笑)。役者たちが血まみれの衣装のまま血を拭いていたんです。それでも消えず、後日業者を呼んで清掃して、高額な費用がかかりました。」と語っています。田中監督は「特殊メイクさんのせいではなく、急に変更したことが悪かったんです」と苦笑いしながら語っています。
渋谷さんは、安藤さんに復讐を実行する中でどんなことを考えていたのか尋ねます。安藤さんは、「この作品に取り組むのに勇気が要り、時間をかけて役作りに悩んだ。復讐をしても『やってやった!』とは感じず、スッキリもしないし、『なんてことしたんだ…』と後悔もしなかった。不思議な表情をしていたと思います。」と自分の心境を明かしています。
田中監督は、この言葉に触れながら映画のキャッチコピー「質問です――。あなたの子供がいじめで殺されたら復讐しますか?」について語ります。「復讐するかどうかは個人によってさまざまだと思います。法律では許されないけれど、やりたいと思う人もいるでしょう。でも実際に演技の中でやってみても、空っぽになり、そういう顔になるんです。復讐は難しい。人間は『ゆるす』という機能を持っていて、怒りは一時的なもので、時間が経つとゆるしていこうとする機能も備わっているんです。難しい問題ですね。」と真剣な表情で語っていました。
安藤 瞳 保 亜美 渋谷はるか 小暮智美 吉田久美 尾身美詞 宮山知衣
安山夢子 田中千空 望月美友蘭 御守このか 上野璃子 洞澪 鈴木琉月 前原幸來 羽子田洋子 中島愛子 山中志歩
脚本・監督:田中 聡
協力:テアトルアカデミー/青年座/文学座/俳優座/演劇集団円/テアトル・エコー放送映画部
企画・製作:On7 配給:ニチホランド
上映時間:33分/(C)2021 On7
2021/日本/DCP/カラー/16:9/5.1ch
(R15+)作品