映画

第37回東京国際映画祭『ペペ』アリアス監督Q&Aセッション

「第37回東京国際映画祭」(~11月6日)のワールド・フォーカス部門内で開催されている「第21回ラテンビート映画祭 IN TIFF」にて11月5日(火)、第74回ベルリン国際映画祭にて最優秀監督賞(銀熊賞)に輝いた『ペペ』の上映が行われ、ネルソン・カルロ・デ・ロス・サントス・アリアス監督が出席してのQ&Aセッションが行われました。

イベントに出席した東京国際映画祭の市山尚三プログラミング・ディレクターは本作について「ベルリン国際映画祭で何の予備知識もなく観て、今年最もびっくりした映画」と語り、今年の東京国際映画祭で最初に招待を決定した作品だったと明かしました。
ラテンビート映画祭のプログラミング・ディレクターのアルベルト・カレロ・ルゴ氏も「チケットが最も早く売り切れたのもこの映画でした」と明かし、本作への観客の期待値の高さを指摘します。
『ペペ』舞台挨拶
コロンビアの麻薬王・エスコバルが私設動物園のためにアフリカからカバを輸入し、エスコバルが当局に射殺され動物園が崩壊した後も現地の環境に適応し繁殖したという実話にインスパイアされた本作。

カバを近距離で撮影したショットが印象的ですが、どのようにしてこうしたショットが実現したのか? という質問に、ネルソン監督は「カバとの関係に関して言うと、私は約3年の時間をジャングルで過ごし、撮影をしました。そうすると、そこにいるカバは、私の匂いを覚えて、近づいても私が危害を加える者ではないと認識し、嫌がらないようになるんです。そうやって、普通では撮れない映像を撮ることができたと自負しています」と明かしました。

映画は、人間の都合でアフリカから南米に連れてこられ、殺されたカバのペペの一人称で語られますが、ある観客からは、ペペを怒りや悲しみを宿した被害者としてではなく、どこか達観した視点を持つキャラクターとして描いている点について質問が。ネルソン監督は映画祭スタッフが舞台袖で出す「あと5分」というカンペを見やり「そんなこと、5分で語り尽くせるわけないよ(苦笑)!」と嘆きつつ、それでも「私がこの映画で最初に書いたのは、ペペのモノローグでした」と語り、まず劇中でペペが話す言語について言及。「映画の中で、ペペは、ナミビア、南アフリカで使われるアフリカーンス語、南米で話されるスペイン語、そして映画に出てくる河の流域で話されるエボクシュ語という3つの言葉を話します。こうした言語の違いひとつで、世界情勢や歴史など、様々なことが表現されています」と語ります。

pepe
そして、ペペの口調やキャラクターを通して本作で監督が伝えたかったメッセージとして「多様性の大切さ」を強調。「そもそもペペは幽霊のような存在で、トランス状態の中でトランスの中で先祖たちと対話をしますが、そこで言いたかったのは『植民地時代は終わった』ということ。アメリカや西洋諸国が何と言おうと、植民地支配の時代に終止符を打たなくてはいけない。その新しい時代を表現するために、ペペというキャラクターをつくりました。多様性こそ植民地の時代が終焉を迎えるにあたって、ふさわしいものだと考えています」と力強く語り、客席からは熱い拍手がわき起こりました。

123 分/カラー&モノクロ/スペイン語、アフリカーンス語、ドイツ語、ムブクシュ語/2024 年/ドミニカ共和国/ナミビア/ドイツ/フランス
監督:ネルソン・カルロ・デ・ロス・サントス・アリアス
出演:ジョン・ナルバエス、ソル・マリア・リオス、ファリード・マティラ
コロンビアの麻薬王パブロ・エスコバルが、私設動物園に収容するためにアフリカのカバの捕獲を命じたという事実の顛末を、“カバの視点”から描き出す。『COCOTE』(’17)の監督&脚本、ネルソン・カルロ・デ・ロス・サントス・アリアスが手掛け、第74回ベルリン国際映画祭では銀熊賞(監督賞)に輝いた。
(c)MonteyCulebra