作家・村上春樹の原作を初めてアニメ映画化した『めくらやなぎと眠る⼥』(7月26日公開)。その⽇本語版完成披露上映会が7月1日に都内映画館で実施され、声優を務めた磯村勇⽃(小村役)、⽞理(キョウコ役)、塚本晋也(片桐役)が上映前舞台挨拶に参加した。
⾳楽家でアニメーション作家のピエール・フォルデスが村上春樹の6つの短編(「かえるくん、東京を救う」、「バースデイ・ガール」、「かいつぶり」、「ねじまき⿃と⽕曜⽇の⼥たち」、「UFOが釧路に降りる」、「めくらやなぎと、眠る⼥」)を翻案しアニメ化。英語(⽇本語字幕付き)のオリジナル版とともに、深⽥晃司監督演出&ピエール監督監修の⽇本語版も公開される。
オファーを振り返って磯村は「アニメーション映画で自分の声を吹き込むことはそれほどやってこなかったのですが、村上春樹さん原作ということもあり、期待しかありませんでした」と満面の笑み。村上春樹原作の映画は漏れなく観ているという⽞理は「そこにこの作品が初のアニメ化として並ぶのかと思うと感無量です」と嬉しそう。塚本も「お話をいただいた時に、直感的に面白そうだと思った。単に吹き替えるのではなく、演技をしながら収録をしていくと言われて身構えたけれど、結果的に非常に面白かったです」と手応えを得ていた。
3人を驚かせたのは、そのアフレコスタイル。マイクの前に立って声を吹き込むのではなく、絵に合わせて実際に演技をしながら声を収録していったという。磯村は「人物が座っていたり寝転んでいたりしたら実際に同じ動きをしながら声を当てていきました。アニメーションだけれど、実写を撮っている感覚になる特殊な現場でした」と証言。ベッドに寝転がっているシーンでは「体勢によって台本をどこに置いたら絵に合わせられるのか探りながらやったので、途中から凄い恰好でジョジョみたいになった」と当時の苦労をジョジョ立ちならぬ“ジョジョ寝”を再現して報告した。
演出指示もピエール監督と深田監督の立会いの下、対面形式で行われた。磯村は「ピエールさんは英語で説明をされて、深田さんは深田さんなりの解釈で演出をなさっていて。時々お二人の説明が微妙に違う時もあって、自分はそんな二人の間にずっと挟まっている状態。それぞれの説明が訳されない時もあって、クリエイティブな面でバチバチする間で僕はどう小村を咀嚼して選ぶべきなのか悩んだりして…面白かったです」と回想。
⽞理も「私は英語でピエール監督とやり取りをしましたが、フランス語通訳さんもいて、深田監督は日本語で喋るので、3か国語がトライアングルのように飛び交うシチュエーションでした。それにピエール監督がクールな感じだったので、私の芝居が気に入らないのか、それとも性格のせいなのかわからず不安でした」と振り返った。これに磯村と塚本は「大丈夫です。僕らもそんな感じでしたから」とフォローして笑いを誘っていた。
そんな二人の苦労に比べて「サクサクと収録が進んだ」という塚本。「それまでに皆さんが葛藤した中でピエール監督も整理がついた状態だったのかもしれません」と言うと、磯村は「塚本さんが現場に入られる前に『あまりにも色々な言語が飛び交っているから、ピエールさんはフランス語で話して通訳を通してそれだけにしましょう』という事になりました。塚本さんの収録は一通り整理がついた一番やりやすい状態だったのだと思います。でもいい現場でした。それが大前提です」と笑っていた。
またピエール監督からキャストそれぞれへのコメントが届いた。磯村には「主人公の小村を演じた磯村勇斗さんは素晴らしい若手俳優でした。磯村さんも私自身もお互いにとても相性良く感じていたと思いますし、村上春樹の作り出すキャラクターが持つある種のカジュアルさのようなものをとても良く理解なさっていたと思います」、玄理には「メインの女性キャラクターであるキョウコを演じた玄理さんは、彼女が経験することになる内的な地震とでも言える状況を、とても素晴らしく捉えた演技をなさっていました。複雑なキャラクターの、17歳、20歳、35歳を自然に演じ分けられてもいました」、塚本には「塚本晋也さんが片桐役に選ばれたのは素晴らしいチョイスでした。この役が必要とする絶え間ない罪悪感や怯えを、とても特徴的な声でしっかりと演じており、彼のアルターエゴであるかえるくんとのバランスも最高でした」。
これに磯村は「チョコや和菓子を差し入れて良かった~。胃袋から掴んでいくのは大事です」とニヤリ。⽞理は「私も差し入れをすれば良かった~!」と悔しがりながらも「お褒めの言葉を頂いて頑張って良かったです」とニッコリ。塚本も「嬉しいです!」と喜んでいた。
最後に磯村は「不思議な世界に誘ってくれる作品で、美しくもありリアリティもあって心に来るものもある。鑑賞後に皆さんがどんな気持ちになるのか気になります。楽しんで観ていただけたら嬉しいです」と期待。⽞理も「日本語が第三のオリジナル版です。皆さんがどのような感想を持ってくれるのか聞きたいです。観終わった後に感想を言いたくなる映画だと思いますので、SNS等で是非感想を書いてください」と呼び掛け、塚本も「オリジナル版も良いですが、この作品は⽇本語版が一番。セリフが違和感なく完全に合体しているので、絵の世界を体で感じてもらえたら嬉しいです」と完成に胸を張っていた。
<あらすじ>
2011年の東京。東日本大震災から5日後、刻々と被害を伝えるテレビのニュースを見続けたキョウコは、置き手紙をのこして小村の元から姿を消した。妻の突然の失踪に呆然とする小村は、図らずも中身の知れない小箱を女性に届けるために北海道へと向かうことになる。
同じ頃のある晩、小村の同僚の片桐が家に帰ると、そこには2メートルもの巨大な「かえるくん」が彼を待ち受けていた。かえるくんは迫りくる次の地震から東京を救うため、こともあろうに控えめで臆病な片桐に助けを求めるのだった――。
めくらやなぎ、巨大なミミズ、謎の小箱、どこまでも続く暗い廊下――大地震の余波は遠い記憶や夢へと姿を変えて、小村とキョウコ、そして片桐の心に忍び込む。人生に行き詰まった彼らは本当の自分を取り戻すことができるのだろうか…。
『めくらやなぎと眠る女』
監督・脚本:ピエール・フォルデス、原作:村上春樹((「かえるくん、東京を救う」、「バースデイ・ガール」、「かいつぶり」、「ねじまき鳥と火曜日の女たち」、「UFOが釧路に降りる」、「めくらやなぎと、眠る女」)
【オリジナル版】
声の出演 :ライアン・ボンマリート、ショシャーナ・ビルダー、マルセロ・アロヨ、スコット・ハンフリー、アーサー・ホールデン、ピエール・フォルデス
【日本語版】
声の出演: 磯村勇斗、玄理、塚本晋也、古舘寛治
木竜麻生、川島鈴遥、梅谷祐成、岩瀬亮、内田慈、戸井勝海、平田満、柄本明
演出:深田晃司 翻訳協力:柴田元幸 音響監督:臼井勝 監修:ピエール・フォルデス
2022/109分/フランス、ルクセンブルク、カナダ、オランダ合作
原題:「Saules Aveugles, Femme Endormie」/英語題:「Blind Willow, Sleeping Woman」
配給:ユーロスペース、インターフィルム、ニューディアー、レプロエンタテインメント
公式サイト: http://www.eurospace.co.jp/BWSW
公式SNS: X:@eurospace_d Instagram:@eurospace_distribution