鈴木清順監督生誕100年を記念
代表作である「浪漫三部作」全てに出演、〈清順美学〉を体現した女優・大楠道代が、鈴木清順監督、原田芳雄、松田優作ら共演秘蔵エピソードを語る!
没後なお、<清順美学>と呼ばれる独自の映像美で、熱烈な支持を得ている映画監督・鈴木清順。その圧倒的評価は日本だけに留まらず、ウォン・カーウァイ、ジム・ジャームッシュ、クエンティン・タランティーノ、デイミアン・チャゼルなど多くの映画人からリスペクトを得ています。
その生誕100年を記念して、代表作である『ツィゴイネルワイゼン』『陽炎座』『夢二』浪漫三部作4Kデジタル完全修復版特集上映「SEIJUN RETURNS in 4K」が公開。初日のトークイベントに、3作品全てに出演する俳優の大楠道代さんが登場。
公開初日は満員御礼となり、多くの映画ファンを前に、鈴木清順監督をはじめ、共演の原田芳雄さんや松田優作さんとのエピソードなど撮影当時を振り返りました。
鈴木清順監督 生誕100年記念
『ツィゴイネルワイゼン』 『陽炎座』 『夢二』4Kデジタル完全修復版
特集上映「SEIJUN RETURNS in 4K」
大楠道代登壇 初日トークイベントレポート
日程:11月11日(土)
場所:ユーロスペース(スクリーン2)
登壇:大楠道代
聞き手:石飛徳樹(朝日新聞編集委員)
『ツィゴイネルワイゼン』の出演を決めたのは、やはりは脚本が素晴らしかったから。それに清順監督が久しぶりに撮る作品で、これは出演したい!とすぐお返事したのを覚えています。
でも最初の対面は酷かったんです。普通、女優と初めて会うなんて、ホテルのロビーなどでしょう?でも、呼び出されたのは道玄坂の喫茶店の前で、その後、ホテル街の奥まった路地に連れて行かれてマンションの一室に入ったら、プロデューサーの荒戸(源次郎)さんが最初に出てきて。帰ろうかなと半分思ってたら、清順さんが出てらして、やっと「本物だ」と思えたんです(笑)。
でもそこから全てが、私が出演させて頂いた三部作が始まるんですよね。
でもこの三部作、やってる本人もスタッフも何をやっているか本当にわからない(笑)。
出来上がった作品を見ても…でも分からない(笑)。だから何度も見返したくなるのかもしれません。
●ツィゴイネルワイゼン
原田芳雄さんとのシーンで、目のごみを舐めて取る場面は色っぽいと言われますが、私は全くそんなこと考えてません。しかも撮影初日のシーンで、台本にも書かれていない。現場でやってくれと言われて一生懸命やっただけなんですよ(笑)。でも、これだけはやって良かった、と思うのは、『ツィゴイネルワイゼン』『陽炎座』もぜんぶ自前の衣装でやらせて頂いたことです。
『ツィゴイネルワイゼン』は、大谷直子さんの衣裳が大島紬などの地味目のお着物。同じような衣裳が私にも用意されていたので、女優が二人いてこれはないだろうと。私自身アンティークの着物をけっこう持っていましたので、それを着ることに。髪をボブにしたモダンガールの扮装も自分で考えたんです。
清順さんも満足なさったのか、「貴方がやりたいようにやってください。私はそれを撮りますから」というお手紙を頂き、気持ちよく好きなようにやらせて頂きました。
●陽炎座
私が幸運だったのはもともと役作りしないタイプ。清順映画は分かっていなくて演じる方が楽なんです。
だから、松田優作さんはとても苦労されたと思います。あのアクションスターに「1メートル以上は動かないで」と注文して。何をやらされているのか分からない!と言って毎日ホテルの部屋で暴れてましたよ(笑)。
『陽炎座』のほおずきのシーンは思い出深いです。大変だったんですよ。水の入った大きな樽に着物で入り、口からポコンとほおずきを一個出すと、その後、樽に一面のほおすぎが浮かぶ、というシーンのはずが、私の顔のところだけ水面が空いちゃって。ああ絶対NGだ、もう二度とやらない!って水中で怒りながら思ってました。でも、最後はジワジワと閉じていったんです。観た人からはCGでしょ?とよく言われますが、本物。映画の神様がいたのか、奇跡ですよね。そして私も長い時間水に入っているのに全然苦しくなかった、不思議な体験。清順監督の現場は時々、凄いことが起きるんです。
●観客に向けて
清順さんの映画に出て、違う現場に行くと、『ツィゴイネルワイゼン』や『陽炎座』を観て刺激を受けてこの世界に入りました、というスタッフに何人もお会いしました。アカデミー賞もとった『ラ・ラ・ランド』のデイミアン・チャゼル監督など海外にも人気で、清順さんのファンなんだってことがわかると嬉しい。いろんな方に刺激を与えた監督なんだと改めて思います。
この三部作をやる、と決めた清順監督やプロデューサー、出演者の原田芳雄さんや松田優作さんなど、みんな亡くなってしまいましたが、残された私としては、皆さんの思いを受け取って、精一杯、いい映画をどんどん伝えていきたいと思います。
「SEIJUN RETURNS in 4K」鈴木清順監督生誕100年を記念 |
4Kデジタル完全修復版監修:
『ツィゴイネルワイゼン』志賀葉一、藤澤順一 『陽炎座』『夢二』藤澤順一
デジタル修復:IMAGICAエンタテインメントメディアサービス
提供・配給:リトルモア
共同配給:マジックアー