3月15日より、第2回新潟国際アニメーション映画祭が開幕した。昨年3月の第1回映画祭より、世界で初の長編アニメーション中心の映画祭として、また多岐にわたるプログラムとアジア最大のアニメーション映画祭として、日本のみならず世界へも発信される映画祭。
映画祭2日目となる本日3月16日(土)、「湯浅政明とアニメーションの動き」と題した湯浅監督の短編に特化した特集上映が行われ、湯浅監督も登壇しトークを行った。非公開作品『なんちゃってバイパイヤン』や25年ぶりの上映となった『スライム冒険記』など、貴重な作品を見られる機会とあって多くのファンが会場へ駆けつけ、監督の言葉に耳を傾けた。
上映されたのは『なんちゃってバンパイヤン』『スライム冒険記』『夢みるキカイ』『キックハート』『アドベンチャータイムズ「フードチェーン」』の5作品。
上映後のトークで『「アドベンチャータイム」フードチェーン』では湯浅監督のキャリアの中では大きな展開のあった作品では?と問われた湯浅監督。海外への意識について聞かれ「『マインドゲーム』が予想以上に喜ばれたところがあった」と回想。「アニメーションってどうやって作っていけばいいんだっていう時に、厳しい状況の中でメジャーな作品を作っていく中であれだけ好き勝手なことをやって開放的にやられてるのは、自分もやる気になれた、元気になれたという人が割と多くて。そのおかげで作品が見られている感じがありましたね」と語った。
また、観客からのQ&Aも行われ、「湯浅監督は監督として各セクションにどのくらい関わってますか? アニメーターの意見を尊重して原画は“こういうふうに修正してください”って指示するだけとか、またはご自身が原画をされたりとか」とクリエイター育成も担う本映画祭らしい質問も飛び出した。湯浅監督は「絵に関しては原画を持たないようにしてますね。どうしても誰も書けないものを書くことが必ず出てくるし、元々アニメーターが監督するっていうのもすごく嫌がられるので。めちゃくちゃ直したい気持ちがありつつもできるだけ直さないで、本人の意見も通って、でも作品としてもちゃんと成立するようなところに落ち着くようにと考えています」との答え。「原画、今回上映の『キックハート』は3人くらいでやっていたのでちょっと持ってますね。誰かが遅れてるとか、どうしても使えない原画があって誰も直せないとかなら自分がやりますけど、できるだけ自分がやったと言わないように、“やる!”というふうには言わないようにしてますね」とアニメーション制作に携わるクリエイター心理を語ってくれた。
「キックハート」ビジュアル(c)2012 湯浅政明・Production I.G
ドMの売れない覆面レスラーと、ドSの売れっ子覆面レスラーを描いた“SMプロレスコメディ”が「キックハート」。クラウドファンディングでの制作となった同作は、当時湯浅監督含む3~4人で制作していたと明かされる。また海外でのウケのよさには湯浅監督自身も想定外だったと述べた。またゲスト監督として参加した「アドベンチャー・タイム」では、食物連鎖の様子を描写。制作に至った過程としては「アメリカのスタジオに行ったタイミングで、なにかと話していたら制作に加わることになりまして。制作中もスタッフが僕の作品を観てくれていたみたいで、オープニング映像は『夢みるキカイ』に出てきた足の長い生き物を意識して作ってくれていたと聞きました」と当時の交流を振り返った。
「『アドベンチャー・タイム』フードチェーン」より。 (c) 2024 Warner Bros. Discovery, Inc. or its subsidiaries and affiliates. All rights reserved.
聞き手を務めた数土直治プログラムディレクターから、短編作品、シリーズ作品、長編作品の作り方の違いを聞かれた湯浅監督は「短編には短編の、シリーズにはシリーズの、映画には映画のよさがありますよね。短編だって1本の映画を作るくらいの気持ちが必要になってきますし」と答える。また手がけるジャンルも幅広さについても「特別意識しているわけではなくて。企画が外から来ればそれに答えるという楽しみがあったりしますね」と話した。
「犬王」ポスタービジュアル (c)2021 “INU-OH” Film Partners
音楽については、監督を務め始めた当初に四苦八苦していたことも告白。「『なんちゃってバンパイヤン』のときは発注の仕方もわからなくて(笑)。その後の『スライム冒険記 ~海だ、イエ~~』のときの梶浦由記さんだったり、『マインドゲーム』のときの渡辺信一郎さんから、発注の仕方や曲の出し方のアイデアを学びました」と述べる。また「犬王」での琵琶とロックの融合というアイデアは、作品に沿ってのものだったのか、それとも音楽表現としてが先だったのかと聞かれると「結果的にああいう音楽になりました」と回答。「大友さんとは音楽の感じでぶつかることもありました。最後に犬王がお面を取るシーンでは、大友さんとの意識の差もあったりしたのですが、直してもらって今の形になりました」と述懐した。
その後観客を交えた質疑応答が行われる。「監督として参加している湯浅監督は各工程にどれほど関わっているのか」と聞かれると、湯浅監督は「基本的には原画は持たないようにしています」と回答。「もともとアニメーターが監督をするのは嫌がられてしまいますし(笑)。めちゃくちゃ直したいときもありますけど、できるだけ自分がやるとは言わないようにしていますね」と話す。また湯浅監督の作品には動物が重要なキャラクターとして描かれることが多い印象だが、動物という存在をどのように捉えているのかと質問されると、「基本的にはカテゴリーにこだわっていないです。例えば男か女か、大人か子どもか、とかそういった部分ですね。なので“動物だからこうである”という表現はしないようには心がけています」と答えた。
最後に「アニメーションの楽しさは?」と問われた湯浅監督。「全然わからない(笑)」としながらも「(アニメを制作していて)楽しい瞬間も、めんどくさくて大変だという瞬間もあります。でも人がつくったものは何かしらを表現できるはずだと思っていますし、絵や音や色などいろんなものを使って表現できるところがいいと思っています」と話しイベントは締めくくられた。なお、本日3月16日は湯浅監督の誕生日ということもあり、湯浅監督が来場者に向けてお菓子をプレゼントする場面も見られた。