映画

映画『愛に乱暴』公開後トークイベント

日付:9月16日(月・祝)
会場:シネスイッチ銀座
登壇:江口のりこ、小泉孝太郎、森ガキ侑大監督
MC:森直人

『悪人』『怒り』で知られる吉田修一の傑作小説『愛に乱暴』が江口のりこ主演、森ガキ侑大監督でヒューマン・サスペンスとして映画化、現在絶賛公開中。

9月16日(月・祝)に都内劇場でトークイベントが開催され、主演・桃子役の江口のりこと、真守役の小泉孝太郎、監督の森ガキ侑大が登壇。本編で描かれる妻と夫の関係性を振り返り、観客からの質疑応答にも答えた。

主人公・人妻の桃子の幸せな日常が次第に崩れていくさまを描いた本作。上映後のトークショーに現れた江口、小泉、森ガキ監督の3人。不倫する夫・真守役を演じた小泉は「ちょっと皆さんの視線が痛いです……すみません、あんな真守で!」と開始早々に謝罪し笑いを誘った。

“妻と夫のトークショー”と銘打たれたトークイベントにちなみ、桃子と真守の夫婦像の創作について話が及ぶと森ガキ監督は「結婚8年目の桃子と真守の夫婦について、江口さんと小泉さんそれぞれとお話して『こういう夫婦にするとよいかな』と作っていきました」と語った。小泉は「江口さんと夫婦役を演じられるのはすごく嬉しかったんですけど、なにせ妻を裏切る役なので……撮影中は江口さんに対する心苦しさでいっぱいでした。江口さんに『ごめんなさいこんな男で』と思わず謝ってしまったんですよね」とエピソードを話すと、江口は「そんなことありましたっけ?」とケロッとした様子。「でもそれは孝太郎さんが悪いわけじゃなくて、本に書かれてあることだからしょうがないです」と江口がなだめると小泉は「それ! 現場でもまったく同じこといってくれました」と嬉しそうに笑っていた。

続けて「孝太郎さんとは控室でずっと一緒だったのでいろんなお話をしたことは覚えています。映画のことじゃなく、趣味のゴルフとかラジオの話とか、全然関係ない話をずっとしていました」と本編のサスペンスフルな雰囲気とは反対に、和やかな撮影現場だったと明かす。

これまでの清廉なイメージを覆し、妻を裏切り続ける男を演じた小泉は役作りについて「真守役を演じるのは苦しかったです。まだ僕は独身ですから、夫婦の生活の大変さとかは身に染みて分かっていないのですが、台本を読んだ時点でもう『これは息苦しい撮影になるな』と感じました」と振り返る。

森ガキ監督は「小泉さんと事前にお話ししていたのは、真守は弱い人間だってこと。自分と正面切って向きあうことを避けてなにもかも隠したがる、自分に自信がない男を作り上げていこうと話し合いました。現場ではボソボソしゃべってほしいとか、セリフの抑揚を抜きましょう、など細かい相談もさせていただきました」と撮影中にも綿密に練っていったという。小泉は「僕が今まで出会ってきた人の中で、心ない返事をする人とか、最近離婚したなっていう人を思い浮かべて参考にさせていただきました。誰とは言えないんですけど(笑)」と笑い交じりに語った。

またこの日は会場の観客からの質問にも答えていくティーチインの時間も設けられた。
小泉に対して「真守の日焼けあとがくっきりしていてすごく気になった。あれは役作りなのかそれとも単にゴルフ焼けなのか?」と鋭い質問が飛ぶと「正直にお答えしますね」と前置きし「真守は毎朝ランニングする人物という設定があるわけですよ。つまり、日焼けをしていても問題ないんだな、と勝手に解釈しましてゴルフで存分に焼けてきました。監督ごめんなさい」とまたまた謝罪。森ガキ監督は「そうかなって思ってました(笑)。でも小泉さんは大変な役を背負っていたので、ゴルフで癒されていたならなによりです」と優しく微笑んだ。江口は「ちょっと焼け過ぎかなとは思っていましたけど、撮影の合間にも『ゴルフが人生だ』っておっしゃってたから。そう言われると何も言えないし……」と苦笑していた。

江口に対して「桃子はいろんなものの匂いを嗅ぐクセがあったが、印象に残った匂いはあったか?」という質問が飛び出すと「家の匂いですね。あの家は実際に人が長年暮らしていて、生活の匂いがあったからそれをよく覚えています」と明かした。さらに「小泉さんはどんな匂いがしたのか?」と聞かれると「孝太郎さんは……無臭でした。何の匂いもしなかったです」と答え、小泉は「ゴルフ帰りで汗臭くなくてよかった」と胸をなでおろしていた。

森ガキ監督には「不倫する真守にすがる桃子を見ていてイライラしたが、もっと女性には違う選択肢があることを示したかったのか?」という質問が投げかけられ、監督は「そういう意図も込められています。もともと桃子は、自分を変えようと思ったらいくらでも変えられる人間だと思うんです。でも環境に縛られてそういった考えに至りにくくなってしまっている。女性もいろんな選択肢があると気づいてほしいなと思いながら、脚本を作っていきましたが、原作小説にはもっと深く書かれているのでぜひ読んでみてほしいです」と解説した。

イベントの最後に「江口さんと小泉さんの演技も素晴らしいですし、僕にとっても自信作なのでぜひ2回3回と観ていただきたいです(森ガキ)」、「きっと既婚者と独身者、男性と女性で感想が全く異なってくる作品だと思うので、いろんな感想が聞けたら嬉しいです。江口さんとはいつか笑顔で話せる夫婦役を演じたいですね」(小泉)、「1年前に作った映画がこうやって上映されて、忙しい中皆さんがわざわざ劇場に観にきてくださることが本当に嬉しいです。私はこの映画とこの映画を一緒に作った人たちのことが大好きなので感謝でいっぱいです。本当にありがとうございました」(江口)と映画に寄せる思いを語り締めくくった。

夫の実家の敷地内に建つ“はなれ”で暮らす桃子は、「丁寧な暮らし」に勤しみ毎日を充実させていた。そんな桃子の周囲で不穏な出来事が起こり始める。桃子の平穏な日常は、少しずつ乱れ始める・・・。
人間の複雑な感情とその裏に隠された本質を鋭く炙り出してきた吉田修一の同名小説を、『おじいちゃん、死んじゃったって。』の森ガキ侑大監督が映画化。主演は唯一無二の存在感とユニークで高い演技力を持つ江口のりこ。共演には小泉孝太郎、風吹ジュン、馬場ふみから個性豊かな俳優陣が名を連ね、江口扮する主人公を追い詰めていく。江口のりこの振り切った怪演により、息もつかせぬ緊迫感に包まれたヒューマンサスペンスが誕生した。物語・・・
夫の実家の敷地内に建つ“はなれ”で暮らす桃子は、義母から受ける微量のストレスや夫の無関心を振り払うように、センスのある装い、手の込んだ献立などいわゆる「丁寧な暮らし」に勤しみ毎日を充実させていた。
そんな桃子の周囲で不穏な出来事が起こり始める。近隣のゴミ捨て場で相次ぐ不審火、失踪した愛猫、度々表示される不気味な不倫アカウント…。桃子の平穏な日常は、少しずつ乱れ始める。
愛に乱暴

『愛に乱暴』作品情報

公開日 2024年8月ヒューマントラストシネマ渋谷、新宿ピカデリーほか全国ロードショー
キャスト 監督:森ガキ侑大
原作:吉田修一
出演:江口のりこ 小泉孝太郎 馬場ふみか 風吹ジュン
配給 東京テアトル
制作国 日本(2024)
公式サイト https://www.ainiranbou.com/

(C)2013 吉田修一/新潮社 (C)2024『愛に乱暴』製作委員会