2024年11月8日より劇場公開される、2023年度のセザール賞で最多12部門のノミネートを果たしたフランス映画「動物界」から、“新生物”の姿が潜んだ、4種類のアザーポスターが公開された。
ウロコの中からこちらを見つめる澄んだ目、爬虫類の皮膚を持ち樹木と同化する“新生物”のほか、ポール・キルシェ演じる主人公のエミールが捕らえられた2枚のポスターにも、新生物の影が隠されており、幻想的な森を舞台にした新生物との交流や動物化する過程を想起させるデザインとなっている。
「動物界」は、人間がさまざまな動物に変異する奇病がまん延している近未来を舞台とした作品。原因不明の突然変異によって、人類は徐々に体が動物と化していくパンデミックに見舞われる。“新生物”は、その凶暴性ゆえに施設で隔離されており、フランソワの妻ラナもそのひとりだった。しかしある日、移送中の事故によって、彼らが野に放たれる。フランソワは16歳の息子エミールとともにラナの行方を必死に探すが、次第にエミールの体に変化が出始める。人種差別、移民、ルッキズム、感染症など、現代的なテーマを内包した作品となっている。
最愛の家族を守り抜こうとするフランソワを演じるのは、「真夜中のピアニスト」「彼は秘密の女ともだち」などのロマン・デュリス。イレーヌ・ジャコブを父に持つポール・キルシェが、少しずつ動物化していくエミールの心の叫びを体現する。さらに、「アデル、ブルーは熱い色」のアデル・エグザルコブロスらが出演している。監督・脚本を務めたのはトマ・カイエ。
一足先に本作を鑑賞した著名人によるコメントも公開された。コメントは以下の通り。
【コメント】
板垣巴留(漫画家)
美しいビジュアルと不気味な手触り、鼓膜を振るわせる咀嚼音。動物の描写のすべてがとても生っぽくセクシーでした。ありふれた家族ものというより、これは種族の壁の話。素手で触れると怪我を負う、野生動物そのもののような危うい映画です!
■今泉忠明(動物学者)
人間が動物化して奇怪な新生物に変わっていくという奇病が流行り出した街が舞台だ。人は、自分たちと違うものを嫌い、恐れ、排除しようとすることが多い。しかし一方で、理解しよう、共存しようとする人もいる。この病気が可愛らしい新生物に変わっていくなら、人々は喜ぶのだろうな。そんな思いが頭をよぎった。息子が奇病に感染したとき、父親がとった勇気ある行動は愛に満ちていた。日本の父親だったら…かなり違う気がする。
■Entei Ryu(Concept Artist)
『動物界』は、現代社会におけるカフカ的な寓話を豊かな象徴性で描き出している。SF物語の中に、日常で描かれる家族関係や、社会的な偏見と排斥への鋭い視点が込められており、観る者に強く響く。漫画家Frederik Peetersによる動物化のデザインは、馴染みのあるモチーフに絶妙な異質感を加えている。特に、生物の目の曖昧な表現は、映画のテーマと共に「人と獣」の境界を巧みにぼかしている。
■奥 浩哉(漫画家)
手塚治虫の「バンパイヤ」や「X-Men」のような動物に変異するミュータントが現れるようになった設定で荒唐無稽なコミック映画になりそうなところを鋭い演出力によってリアルで存在感のある世界になっていた。役者の演技もリアルで作品に説得力を持たせていた。記憶に残る映画だった。
■カトウタカヒロ(漫画家)
奇病による世界の異変がリアルに描かれつつも、劇的な展開に頼らずに序盤から丁寧な描写が光る作品でした。技術が進化しても人間社会は未成熟だということを親子の普遍的な絆を描くことで他種に排他的な人間の特性とそのギャップが興味深く描かれています。世界の変化に弱い人間社会、それでも失われぬ愛、動物的本能に回帰することで直面する試練、解放感、生の喜びが鋭い洞察によって描かれた作品でした。非常に面白かったです。
■苅田梨都子(ファッションデザイナー)
自分自身たまたま人間に生まれ、当たり前のように生活している。しかし急に自分の体が動物へと変化していき隔離される未来がもしあるのだとしたら…。愛する人や親しい人の容姿や形態が変わっていくことを受け入れられるだろうか?はたまた自分自身がそうなった場合は?不穏な空気に包まれながらもこの映画は「愛」も感じた。言葉では伝わらない事柄や気持ち。大切な人や家族と共に観てほしい作品。
■小島秀夫(ゲームクリエイター)
ハリウッドが”獣人“テーマを扱ったなら、VFXをふんだんに使ったありふれた変身映画になってしまう。ところが、フランスらしいエスプリが転移した本作は、“人間界”での社会と家族、変化と成長、対立と共生を炙り出す。外見のトランスフォーム(変形)だけではなく、内面までもメタモルフォーゼ(変身)させる“青春ドラマ”の“突然変異体”として、魅せてくれる。その“特異“な映像技術も見せ方も異質である。
■澤江ポンプ(漫画家)
他者も世界も万物流転でどんどん変化していくが、ヒトはその変化していく対象の中に不変なものを求める動物だと思う。脳が高度に発達した結果そのような認知傾向が生じたのだろう。だから異形の肉親にも不変なものを求めようとする。多分その認知の偏向を愛という。この映画が必ずしも悲劇的でないのは、新生物の姿や振る舞いに不変なものの片鱗が窺い知れるからではないのかな。お父さんがスーパー不憫。
■鈴木敏夫(スタジオジブリ)
みんな、忘れている。
人間が動物だったことを。
この映画は、それを思い出させてくれる。
■手塚るみ子(プランニング・プロデューサー)
この映画はまるで手塚マンガで培ってきた私たちの心を射止めるかのよう。 恐怖やおぞましさではなく、葛藤や悲哀、種を越えた深い情愛。自然界の美しさに比べ人間の傲慢ぶりよ。共生か、排除か。果たしてそれを決めるなんて「おこがましいとは思わんかね」…
■中西宏彰(造形作家)
親子の葛藤、青年の思春期の変化を新生物というモチーフを使って描いた心に残る作品。 エミールの人間と新生物の間で苦悩する様や父親目線での子供の変化、取り巻く環境の中での葛藤があり二人の視点でそれぞれ違った悩みに共感が持てる。 新生物のデザインも人でありながら人ではない中間生物のような見た目であり、キャラクターとして共感は持てるがどこか恐ろしい印象もある作風にマッチした見事な表現だった。
■長沼毅(生物学者 広島大学教授)
これはアニマライゼーション(人間の動物化)の物語である。外見が動物化していく過程で、内面はまだ人の心を保っている期間がある。その「外獣内人」の期間が人間と新生物の差別や分断を生みだす一方、交流への希望の時間でもある。この動物化は四肢動物の範囲内であり生物学的に荒唐無稽ではないし、 四肢動物に特有とされていた遺伝子は魚類に発しているので、魚類への動物化もあり得るのだ。この映画の続編を期待したい。
■ぬまがさワタリ(作家/いきものクリエイター)
カフカ『変身』や中島敦『山月記』といった文学から、ピクサー映画『私ときどきレッサーパンダ』まで、「人間が動物に変身する」物語は人の心の奥底を刺激してきた。変身が個人や社会にもたらす揺らぎを突き詰め、牙のように研ぎ澄ませた『動物界』は、その系譜の異端児にして最先端だ。私たちと近くて遠い「動物」という他者を通じて、「人間界」に根を張る多くの問題を鮮やかに描けると証明する、「動物映画」の”進化”を見た。
■パンク町田(動物研究家)
エミール、君は正しい!
友情は常識を超え誰も知らない大自然で
新生物へと生まれ変わる機能とハーモニーは鍛えられた。
父親の愛情もまた、法律では取り締まることができなかった。
これは本当に病気なのか?
進化とは階段のように突然登る瞬間が繰り返しに訪れるものだ。
つまり新生物は、私たち人間の新たなる分岐点の訪れなのでは・・・?
彼らの愛そして新生物は、地球の生態系にいかなる影響を与えてゆくのだろう。
■ヒグチユウコ(画家)
分断させる世界。
進化なのか退化なのか。
■水島努(アニメーション監督)
今まさに起こっているいろいろな世の中の問題が盛り込まれていつつも、それがしっかりとエンターテイメントとしている、とても素晴らしい作品。ややもすると荒唐無稽になりそうな設定を、とても説得力のある深いストーリーに仕上げられていて驚きました。
「動物界」だけではなく、ごちゃごちゃ複雑で面倒くさすぎるわれわれの「人間界」も、この映画ではしっかり描かれています。おすすめです。
■minaco sakamoto(ひとふでがき作家)
動物が好きなので、タイトルから動物と人間の在り方についての話かと思ったが、人間社会においても深く考えるべき内容だった。外見や思想などで相手を決めつけ、自分の正義を“善”とし、自分と“違うもの”を否定し受け入れない。さっきまでの友を急に“敵”とみなす‥。
現代の様々な問題においても、お互いにとって最善の道は何なのか、自分優位の考え方になっていないかなど他人事ではなく“自分事”として考えるきっかけになった。
【作品情報】
動物界
2024年11月8日(金)より、新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町、ヒューマントラストシネマ渋谷他にて公開
配給:キノフィルムズ
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