本作で森山未來が演じるのは、主人公・遠山卓は大河ドラマや舞台に出演している俳優という設定。森山が“俳優”を演じるのは本作が初だという。卓という人物像の理解をめぐって、近浦監督と森山の間で相当な時間をかけて議論を重ねた。
重要な論点のひとつになったのは、卓を俳優という設定にした理由だ。 「なぜ卓は、自分が 13 歳の時から不在だった父親のことを知るために、あれほどの旅を重ねたのか。卓を突き動かしたのは、結局人間に対する“興味”であること。それはすなわち俳優の特質にもつながってくるのではないか。卓にとっては、父親に近づこうとするアプローチが全て『演じる』営為に繋がっていく。だから、卓を俳優という設定にするのは初期段階から必須の条件だった」と近浦監督は役柄に託した思いを明かす。
近浦監督は、「卓という主人公はそもそも理解が難しい人物像だと思っていた」と語る。「いわゆる親子の絆という観点からすると、卓はわかりやすい共感ポイントのある人物ではない。父親への愛情も希薄ですし、父親が認知症になったからといって、別に献身的に介護をするわけでもない。逆に父親に対して分かりやすく反発しているわけでもない。そういったありがちな図式からは全て外れたところで、卓は父・陽二に対し、自分の父親というラベルを乗り越えたところで、ひとりの人間としての彼を発見していく。だからこそ森山未來の演技が必要だったし、スーパーナチュラルな感性の高さを持った彼じゃなきゃ成立しない映画でした」
この度、フェイク・メイキング映像を公開!『大いなる不在』の劇中のワークショップの一幕。『バッコスの信女―ホルスタインの雌』で第 64 回岸田國士戯曲賞を受賞した劇作家・演出家の市原佐都子が本人役で出演し、森山未來ではなく「森山未來が演じる遠山卓という俳優」と向き合い、演劇創作実験をするというトリッキーかつ贅沢な試みを行っている。「重要なことは、“創作実験をする様子を演じる”2 人を撮影したのではない。正しくは文字通り“創作実験をする”2 人を撮影した」と近浦監督は語る。市原の出演が決まった経緯は、「森山さんと卓という人物について話し合っている最中に、森山さんから市原さんの名前が挙がりました。彼女は自分の作品以外を演出するのは今回が初めてだったんですけど、いつもと違う異例の提案という意味でもご興味を持ってくれたようです」という。
撮影に際し、近浦監督は「ベーシックな演出アイディアは事前に市原氏と僕とで電話で打ち合わせをしていたが、実際に市原佐都子が、(森山未來演じる)遠山卓と対面することは初めて。2 人の相性も分からない。コラボレーションがどんな風に流れていくのかを想像することは難しかった。市原佐都子と遠山卓、演出家と俳優、この 2 人の表現者がどのようにぶつかり、どのようなものを 1 日の実験で作り上げるだろうか。この撮影から、映画『大いなる不在』はどのような成果を得られるだろうか。そういう多層な好奇心に突き動かされながら、35mm フィルムを回し続けました」と振り返
る。そして、「森山未來は、朝から晩まで途切れることなく遠山卓を演じ切った。「遠山です」と一礼して会場に入ってくる卓。それを演じる森山未來。(森山未來ではなく)遠山卓を迎える演出家・市原佐都子。そんな一日の始まりを映したメイキング映像…と言えばある程度嘘になるので改め、フェイク・メイキング映像を、映画『大いなる不在』ヒット・スタート御礼に公開します」とコメントを寄せた。
近浦啓監督 コメント全文
『大いなる不在』の劇中のワークショップの一幕。劇作家・演出家の市原佐都子が本人役で出演し、森山未來ではなく「森山未來が演じる遠山卓という俳優」と向き合い、演劇創作実験をするというトリッキーかつ贅沢な試みを行っている。
重要なことは、「創作実験をする様子を演じる」2 人を撮影したのではない。正しくは文字通り「創作実験をする」2 人を撮影した」。
ベーシックな演出アイディアは事前に市原氏と僕とで電話で打ち合わせをしていたが、実際に市原佐都子が、(森山未來演じる)遠山卓と対面することは初めて。2 人の相性も分からない。コラボレーションがどんな風に流れていくのかを想像することは難しかった。市原佐都子と遠山卓、演出家と俳優、この 2 人の表現者がどのようにぶつかり、どのようなものを 1
日の実験で作り上げるだろうか。この撮影から、映画『大いなる不在』はどのような成果を得られるだろうか。
そういう多層な好奇心に突き動かされながら、35mm フィルムを回し続けた。
森山未來は、朝から晩まで途切れることなく遠山卓を演じ切った。「遠山です」と一礼して会場に入ってくる卓。それを演じる森山未來。(森山未來ではなく)遠山卓を迎える演出家・市原佐都子。
『大いなる不在』(英題:Great Absence)
卓(森山未來)は、ある日、小さい頃に自分と母を捨てた父(藤竜也)が警察に捕まったという連絡を受ける。妻(真木よう子)と共に久々に九州の父の元を訪ねると、父は認知症で別人のようであり、父が再婚した義理の母(原日出子)は行方不明になっていた。卓は、父と義母の生活を調べ始めるが──。
監督・脚本・編集:近浦啓
共同脚本:熊野桂太
プロデューサー:近浦啓、堀池みほ
出演:森山未來、真木よう子、原日出子、藤竜也
製作・制作プロダクション:クレイテプス
2023年/日本/カラー/アメリカンビスタ/5.1ch/133分
日本公開:2024年7月12日(金)よりテアトル新宿、TOHOシネマズ シャンテほか全国順次ロードショー
配給:ギャガ
助成:文化庁文化芸術振興費補助金(映画創造活動支援事業) 独立行政法人日本芸術文化振興会
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