日仏共同製作によるニコラ・フィリベール監督の最新作『アダマン号に乗って』が、本年度のベルリン国際映画祭コンペティション部門で最高賞の金熊賞を受賞し、日本でも全国公開中です。
4月28日(金)の初日舞台挨拶には、フィリベール監督自らが4年ぶりに来日し、予告編のナレーションを務めたエッセイストの内田也哉子もゲスト登壇しました。内田さんは、以前からフィリベール監督との縁があり、『ぼくの好きな先生』(2002年)の日本公開時にもコメントを寄せていたそうです。内田さんは花束を贈りながら、「『アダマン号に乗って』の日本公開おめでとうございます! ベルリン国際映画祭の最高賞、金熊賞の受賞も本当におめでとうございます。ドキュメンタリー映画としては快挙だと思います。素晴らしい作品をありがとうございました。」と監督を祝福しました。
フィリベール監督は舞台挨拶で、日本の観客に向けて「ここにこうして来られたことがとても嬉しく、誇りに思っています。金熊賞の受賞が決まったとき、全く予想していなかったので本当に嬉しかったです。コンペティション部門に選出されたことだけでも嬉しかったのですが、最高賞を受賞したということは、ドキュメンタリーというジャンル、そして精神医療が認められたのだと思い、なおさら嬉しいです。」と述べました。また、フランスでの公開も好調であり、監督は笑顔で「ちょうど1週間とちょっと前にフランスで公開されたばかりなのですが、好調なスタートでとても嬉しいです。」と語りました。
内田さんは監督の作品を大絶賛し、「『ぼくの好きな先生』からもう20年も経つのですね。あの作品に出会った時も静かな衝撃を受けたのですが、本作もカメラの前なのに人々が本当に自然に溶け込んでいて、でも監督の作家性もあって、なんていう稀有な作品だろうと思いました。」とコメントしました。フィリベール監督は、「『アダマン号』は船でありながら、セーヌ川に浮かんでいる建造物です。船は旅をしませんが、この映画『アダマン号に乗って』はここまで旅をしてきました。この『アダマン号』を日本に届けることができてとても嬉しく思います。」と作品に込めた思いを語りました。
内田さんは、「世界でも稀に見るおとぎ話のような本当の話ですよね。日常を切り取ったドキュメンタリー作品でありながら、監督がまるでお坊さんのように禅問答をされている。それに私たち観客も一緒にたゆたう感じ。きっと映画を観終わって、波が打ち寄せるように思いを巡らせることができる作品だと思います。素晴らしい作品をこの世に誕生させてくれてありがとうございます。」と感謝の気持ちを伝えました。フィリベール監督も、「アダマン号はおとぎ話ではなく、現実に存在する場所なんですよね。ただ精神医学の場所として、決して代表的な場所ではないんです。フランスの精神科医療の現場は制度から見捨てられてしまったような、あまりいい状態ではありません。でもそれに抵抗する人たちがいる。それがアダマン号にいる人たちなんです。」と作品のテーマについて語り、人々が精神疾患を持つ人々に対して抱く不信感に触れながら、「彼らも私たちと同じ人類の一部なんです。」と力強く述べました。
以上が、ニコラ・フィリベール監督最新作『アダマン号に乗って』の初日舞台挨拶の様子と内田也哉子氏のコメントの要点です。
登壇者:ニコラ・フィリベール監督、内田也哉子(エッセイスト)
配給:ロングライド
ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほかにて全国公開中