日本映画の黎明期、サイレントからトーキー初期にかけて活躍し、その後若くして夭折した映画監督・山中貞雄。彼が生前遺した「鼠小僧次郎吉-江戸の巻」を、『銀河鉄道999』『幻魔大戦』の日本が誇るアニメーション監督・りんたろうがサイレント・アニメーション化した「山中貞雄に捧げる漫画映画『鼠小僧次郎吉』」。
第1回新潟国際アニメーション映画祭にてワールドプレミア上映され、フランスのアヌシー映画祭、リュミエール映画祭での上映を経て、今年9 月にアメリカ・ロサンゼルスで行われた日本映画祭にて最優秀アニメーション賞を見事受賞。国内外の映画祭での上映が相次ぐなか、この度11月23日(土)よりユーロスペースにて上映がスタート。
初回となる【りんたろう自選作品集】『鼠小僧次郎吉』+『幻魔大戦』の上映終了後に、りんたろう監督が登壇し、舞台挨拶を行った。
りんたろう監督は開口一番「今日は外は秋晴れなのに、ここではネズミが暗躍して、考えてみたら僕の作品全部ほとんど物騒な話ばっかりで(笑)」と笑わせながらも朝一番の上映に駆けつけた観客に感謝を述べた。
そこで花束を持った女性が。今回の『鼠小僧次郎吉』では弁士役を務めており、本日同時上映された『幻魔大戦』にも出演の声優・小山茉美がサプライズ登場した。『幻魔大戦』はりんたろう監督と小山茉美の初めてのタッグだったそうだ。「あんまり花束なんかもらったことないんだよね」と言いながら、りんたろう監督も満面の笑顔を見せた。
りんたろう監督と時代劇の組み合わせは珍しいかもしれないが、「子どもの頃、父親と映画を観にいくときにはフランス映画やイタリア映画でしたが、一人で観にいくときにはチャンバラ映画。僕にとってチャンバラは原点みたいなところがある」と回想とともに語ると、「銀座の並木座で初めて山中貞雄の『人情紙風船』を見たんですよ。物哀しい話ではあるんだけど、最後はめちゃくちゃシビレた。紙風船が奥に流れていって終わるんですが僕の作品(『鼠小僧次郎吉』)では紙風船こっちに来させようと思って。サイレント映画はやっぱり映画の原点。ヒッチコックも言ってますけど。映画の原点はほとんどあそこにあるんですよ。僕はそれをリスペクトしたいなと思って、自分の中に置いていた。それは実現するとは思いませんでしたけれど」と山中作品との出合いや、今は過ぎ去ってしまったサイレント・トーキー時代の映画へのリスペクトを語った。
しかし、聞き手の田中氏から「りんたろう監督といえば男のロマンだと思ってますから」という発言には、場内の観客たちも大納得の頷き。「男の子の成長と共に女性のしなやかさも作品の中で絶対に忘れないですし」との言葉にりんたろう監督は「頭とお尻を大友(克洋)くんが描いてくれて、中のキャラクターは兼森(義則)くんが描いてくれた。彼らとも長く仕事をやっているんですけど、“線一本”で色気って出るんですよね。(もちろん)画力がないとダメです、線一本で色気が出るか出ないか、ものすごく重要でした。普通のアニメ・ファンはストーリーを見るけれどそれだけではなくて、線一本どう引いているのか、そういう面白さを追求して見ていくと映画って二重に面白いと個人的には思います」と語った。
次郎吉とお鈴が再会するとき、お鈴がスッと被っていた手拭をひいて自らのほくろを見せるシーンはりんたろう監督のオリジナルの演出とのこと。その溢れる色気はぜひスクリーンで体験してほしいが、「今の時代から言えば人によっては“古いよ!”というかもしれない。でも映画ってそうじゃないんですよね。サイレントからずっと引きずってる“映画の魂”というものがある。それを古いと言えるのか。描き方を変えれば全く新しいものになる、僕はそういう信条でものを作ってきているので、そういうところを感じ取ってもらえると嬉しい」と次世代のクリエイターや映画ファンへの金言を残した。
今回の特集上映では山中貞雄作品の他にも、りんたろう自選作品集として、メインストリームな作品からオルタナティブ的な作品までもが上映される。「『幻魔大戦』は当時としては画期的なことをやっていて、それまでのアニメーションの背景というのは架空のものだったんです。架空のものにリアリティを持たせるため、新宿・吉祥寺といった場所を出したんです。超能力の話にリアリティを持たせるためにやったのがこれをきっかけにアニメの背景の表現というのはガラッと変わったんです。たとえば新海 誠のアニメで出てきた場所を聖地というようになったのはあれが一つきっかけだったと思う」と語った。
「『メトロポリス』以外は全部手描き」というりんたろう監督。アニメーターの画力の凄さを実感することだろう。しかし、現在アニメ業界にも新しいテクノロジーが導入され始めている。「『メトロポリス』はCGは入ってきた頃。アメリカのMAYAというソフトも進化の途中でした。コンピューターを使いながら2D的な画にしたい、乗りこなしたいという思いでした。これからは間違いなくAIがアニメ界に入ってくるはず。乗りこなすのか、任せるのか」。
しかしこれから技術が発展していくことは止められない。「映画っていうのは奥行きがあるし、幅が広いもの。僕は自分の位置をそこに置いてますけど、アニメーションを作られている若い方はそこまで行ってないと思う。コンピューターに頼ってるところがある。でも僕らのやってきたことはコンピューターではできないファジーな部分がある。そのファジーな部分が活かせるのか、それとも死ぬのか。死んでも映画は成り立つと思うんですよ。そこが若い人たちのアニメーションの一つの大きな課題でもあると思いますけどね」と今後のアニメーション業界の展望についても語った。
「これからも頑張って喝を入れ続けてください」と言われたりんたろう監督は間髪入れず「頑張らないです!!」と答え会場を沸かせる。
そして大好きだという勝海舟の辞世の句『これでおしまい!』を紹介し、深い映画愛に溢れたトークショーは終了した。
キャスト&スタッフ
脚本:山中貞雄
脚色/監督:りんたろう
キャラクターデザイン:大友克洋
作画監督・キャラクターデザイン:兼森義則
音楽:本多俊之
プロデューサー:丸山正雄/真木太郎/Emmanuel-Alain RAYNAL /Pierre BAUSSARON
キャスト:小山茉美
アニメーション制作:スタジオM2
製作:ジェンコ/Miyu Productions