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ひろしまアニメーションシーズン2024/レオン&コシーニャ「ハイパーボリア人」日本プレミアで華々しく開幕!

14日夕方から行われた開会式では、まず映画祭のプロデューサーである土居伸彰氏が挨拶を行った。前回の2022年はコロナ禍とあって、海外からの来場が著しく制限され、また国内でも感染拡大が広がりコミュニケーションが難しい時期だった。「映画祭には、映画を観ること、交流することの2つの要素があると思うんですけれども、今回は人が集まる場所としてのひろしまアニメーションシーズンを初めて開催できるとも言える。今回はそれを記念して、映画祭に併設する形でネットワーキング型のアカデミープログラム【HAM】を新設いたしました」と紹介した。
朝は朝食を食べながら、昼はレクチャーやシンポジウム、上映、夕方からはコンペを見たりパーティーで交流を深めるといった映画祭ならではの交流を目的としているプログラムだ。土居氏は「皆様にとって一生の出会いがこの場で起こることを願っております」と語った。

また、HASは地元広島の学校や企業関係者とも密な連携をとっている。宮﨑しずか共同プロデューサーから広島にアーティストを招聘し、住まいながら作品制作に携わる「アーティスト・イン・レジデンス H-AIR」の説明が行われたほか、比治山大学の学生を中心としたボランティア・スタッフの支え、世界的に著名な熊野筆の作品への提供など地元企業への感謝が述べられた。

土居氏は「冷戦期に誕生したアニメーション映画祭という文化は、“アニメーション制作者である”、その一点において共通する人たちが、国境や政治的な思惑を超えて交流してきた歴史を持つ場所。混迷を極める2024年ですが、アニメーション映画祭の誕生の原点にある通り、これからの5日間私たちの目の前にあるのはアニメーションとコミュニケーションの2つだけ。そんな環境で生まれる個人間の交流こそ、平和文化を作っていくもののはず。どうか映画祭を楽しんでください」と挨拶した。

山村浩二アーティスティックディレクターが上映プログラムについて説明。コンペは短編・環太平洋アジアユース・日本依頼作品・長編の4つ。短編はさらに【社会への眼差し】【寓話の現在】【虚構世界】【光の詩】というカテゴリーに分けられる。今回のコンペには97の国と地域から2634作品の応募があった。
その傾向について山村氏は「AIを使った作品がこの2年で急増しました。そして過去の世界大戦を振り返ったり、戦争をテーマにしたもの、もしくは難民や移民問題を扱ったものが大変目立ちました」と語った。グランプリ作品は、アメリカアカデミー賞のエントリー資格が与えられる。

「19世紀末、映画が発明されて以来、イメージはどんどん増殖して洪水のよう。今やスマホや近年のAIの発展でますます加速している。その中でアニメーションというのは、人の手による創造性が高く意識される映像で、これからますます重要性が増してくる。これから5日間、アニメーションの歴史と最先端が折り重なった多様なプログラムをお楽しみください」と力強く開会を宣言した。

「ひろしまアニメーションシーズン2024(HAS)」が本日8月14日に広島・JMSアステールプラザほかで開幕。オープニング作品として、「オオカミの家」を手がけたデュオ、クリストバル・レオンとホアキン・コシーニャによる新作長編「ハイパーボリア人」が上映され、コシーニャが登壇した。

HASは、2022年に始まったひろしま国際平和文化祭のメディア芸術部門の事業として、環太平洋・アジア地域を中心に全世界のアニメーションを紹介する国際映画祭。世界4大アニメーション映画祭の1つとして知られ、2020年に終了した広島国際アニメーションフェスティバルが新たな装いで生まれ変わった形だ。

山村浩二山村浩二

会場にはまず、本映画祭のアーティスティック・ディレクターを務める山村浩二が登壇。彼は「『ハイパーボリア人』は、ライブアクション、コマ撮り、人形劇などいろいろな要素が詰まった作品で、実在したチリのミゲル・セラーノという人物がキーワードになっています。(カール・グスタフ・)ユングやヘルマン・ヘッセなどとも交流があった、博識ですがやや特別な思想を持った人です。彼の話題をベースに、実在する人物やフィクションをミックスさせた独特な世界を楽しんでいただけるかと思います」と解説した。

「ハイパーボリア人」場面カット「ハイパーボリア人」場面カット

「ハイパーボリア人」は第77回カンヌ映画祭の監督週間で上映されており、本日が日本プレミアとなった。本作では、1人の女優の“演技”を通し、チリの暗部に潜むナチスドイツの影を探る。レオンとコシーニャもグロテスクな人形として出演した。

ホアキン・コシーニャホアキン・コシーニャ

上映後、観客の拍手に迎えられながら登場したコシーニャは、本作のアイデアについて「セラーノはナチ新派の極右の外交官で、チリの文学の世界では比較的よく知られた人物。彼がいたこと自体が奇妙なことなので、チリの政治や歴史に向き合うときはそれに匹敵する奇妙さで挑まなければいけないなと思って作りました」と語る。続けて「ナチスにまつわる作品だけど、個人的には“決断する”ことや“ものを作る”ということの困難にまつわる作品だと思う。女優1人と作ると決めていたので、監督の俳優の関係とはなんなのか、といったことも学びながら作りました」と説明した。アニメーション作品の制作の大変さに触れ「実写映画のほうが速くできるのでは?と考えた」と述べるコシーニャだが、実際には脚本ができるまで6年以上の年月を要したという。

左からホアキン・コシーニャ、山村浩二。左からホアキン・コシーニャ、山村浩二。

山村は「一見、すごくラフに撮影しているようにも見えますが、どれぐらい周到に準備しているのですか?」と質問。コシーニャは「撮影の何週間か前からワークショップを開いていろんな人に入ってもらい、人形の90%ぐらいはその人たちが作ってくれたものです。スケジュールを組んで『この順番で撮影しよう』というよりは、簡単なルールやシステムだけ作って、そこに入ってきてくれた人とコラボができればと思っていました。なので、その仕組み作りの準備はありましたが、やりながら即興的にいろんな人と作っていった作品です」と明かした。

ホアキン・コシーニャホアキン・コシーニャ

また本作に影響を与えたものに関して、コシーニャは「僕とレオンは、映画というものが誕生した頃のテクノロジーに興味があります」と話し始め、「新たな技術やジャンルなどが生まれた瞬間にはまだルールがない。『こうやるんだ』と確立される前が面白いと思っていて、あのウォルト・ディズニーでさえ実験しないといけなくなるんですよね。創成期に実験していたメディア自体を扱った作品などに影響を受けています」と説明した。

最後にコシーニャは、レオンからの音声メッセージを観客に届けた。レオンの「広島の皆さん、こんにちは。何年か前に日本に行ったことがあって、本当に大好きで、今回は行けずに残念です。映画、楽しんでください」というコメントのあと、コシーニャが日本語で「ありがとう」と伝え、イベントは終了した。