映画

「ベット・ゴードン エンプティ ニューヨーク」公開決定

米国インディペンデント映画の先駆者の一人、ベット・ゴードン。1970年代末から80年代にニューヨークのアンダーグラウンドで起こった音楽やアートのムーブメント「ノー・ウェイヴ」周辺で活動した映画作家であり、「セクシュアリティ」「欲望」「権力」をテーマにした大胆な探求と創作を行っている。その初めての長編作品『ヴァラエティ』(1983)と、中編『エンプティ・スーツケース』(1980)及び短編『エニバディズ・ウーマン』(1981)が、特集企画「ベット・ゴードン エンプティ ニューヨーク」と題され、一挙公開されることとなった。すべての作品が国内劇場初公開となる。

これまで日本での紹介が極めて少なかった映画作家ベット・ゴードン。今回の劇場公開はこの「未知」の作家を発見し、その作品世界と作家性に触れる機会となる。ゴードンは自身の創作に影響を与えた人物として、ジャン=リュック・ゴダール、ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー、ミケランジェロ・アントニオーニ、ジョン・カサヴェテスなどの映画作家たち、フランスの映画批評家アンドレ・バザン、そしてフェミニスト映画理論家ローラ・マルヴィの名をあげている。

また、近年日本でも劇場公開され反響を得たシャンタル・アケルマンやウルリケ・オッティンガーら女性の映画作家と共にオムニバス映画『Seven Women, Seven Sins』(1986・日本未公開)に参加していることからも、ゴードンがフェミニスト映画理論などを踏まえた、現代的で批評的な映画制作を実践する作り手であることが伺い知れるだろう。

本企画の中心的な作品となる長編第一作『ヴァラエティ』は、これまでフェミニズム映画の文脈で捉えられながらも、「ポルノ」「ポルノ映画館」を取り上げてるために初公開当時から物議を醸し、様々な議論を起こしてきた。ゴードンは本作について、「男性的な空間に侵入し、それを覆したかったのです」と語っている。この「挑発的」「攪乱的」とも言えるゴードンの企みに様々な才能が集結。脚本は実験的な小説家として日本でも1990年代に盛んに翻訳書が刊行されたキャシー・アッカー(『血みどろ贓物ハイスクール』)が担当。撮影はジム・ジャームッシュ監督『ストレンジャー・ザン・パラダイス』(1984)などで知られるトム・ディチロが担う。音楽は、バンド「ラウンジ・リザーズ(The Lounge Lizards)」で活動していたジョン・ルーリー。ディチロと共に初期ジャームッシュ組の重要人物であるルーリーが関わっていることからも、当時のニューヨークのインディペンデント映画を取り巻く状況、ひいてはアンダーグラウンドなアートシーンが垣間見られる作品とも言える。そして、写真家のナン・ゴールディンが「ナン」の役名で出演。本作制作時にスチール写真の撮影に携わり、2009年には同名の写真集が刊行されている。ほか、ウィル・パットン(『ミナリ』)、ルイス・ガスマン(『ブギーナイツ』)、ジョン・ウォーターズ作品常連のクッキー・ミューラーらが出演している。

中短編2作品は、ゴードンの初期のキャリアである実験映画作家としての側面が色濃く出ている。『エンプティ・スーツケース』は国際映画祭などで上映されて高く評価され、『ヴァラエティ』制作への足がかりとなった作品である。この作品でもナン・ゴールディンが出演・参加している。また、『エニバディズ・ウーマン』は映画館「VARIETY PHOTOPLAYS」を舞台に制作され、長編『ヴァラエティ』のプロトタイプと呼べる作品であり、直接的な繋がりを持つ内容となっている。

このたび解禁されたティーザービジュアルは、長編『ヴァラエティ』の舞台で、かつてニューヨークにあったポルノ映画館「VARIETY PHOTOPLAYS」を正面から捉えた写真を使用したもの。鮮やかなネオンの光が美しく輝く様子は、都市の猥雑な夜の雰囲気を醸し出している。19世紀末に建てられたとされるこの建物は、営業形態を変えながらも2004年まで「劇場」として遺っていた。その変遷の中でポルノ映画館だった時期があり、マーティン・スコセッシ監督『タクシードライバー』(1976)でもその外観を見ることができる。客席など内部を捉えている『ヴァラエティ』はこの歴史的なランドマークの一つの記録とも言えるだろう。

制作から40年余りの時を超えてスクリーンに登場する3つの作品。各作品の詳細は以下のとおり。

特集企画「ベット・ゴードン エンプティ ニューヨーク」

ヴァラエティ Variety 1983年/米国/100分/2K修復 国内劇場初公開
監督・原案:ベット・ゴードン/脚本:キャシー・アッカー/製作:ルネ・シャフランスキー/撮影:トム・ディチロ、ジョン・フォスター/編集:イラ・フォン・ハスペルク/音楽:ジョン・ルーリー/出演:サンディ・マクロード、ウィル・パットン、リチャード・デヴィッドソン、ルイス・ガスマン、ナン・ゴールディン、クッキー・ミューラー
ベット・ゴードン監修によるオリジナルネガをもとにした2K修復版

ニューヨーク、タイムズ・スクエア近くのポルノ映画館「Variety」。チケットを売る女性クリスティーン(サンディ・マクロード)は、ある日一人の男性客と言葉を交わす。以来、彼女はその男を追いかけるようになる…。アルフレッド・ヒッチコック『めまい』(1958)に想を得た物語。脚本は実験的な小説家のキャシー・アッカー(『血みどろ贓物ハイスクール』)が担当。撮影をジム・ジャームッシュ監督『ストレンジャー・ザン・パラダイス』(1984)などで知られるトム・ディチロ。写真家のナン・ゴールディン、ウィル・パットン(『ミナリ』)、ルイス・ガスマン(『ブギーナイツ』1997)、ジョン・ウォーターズ作品常連のクッキー・ミューラーらが出演。そして、音楽を当時「ラウンジ・リザーズ」で活動していたジョン・ルーリーが担当している。ニューヨークのアンダーグラウンドなアートシーンから生まれた、ゴードンの代表作。

『ヴァラエティ』海外メディア評

「米国最高のインディペンデント映画のひとつ」― Time Out, London
「これはフェミニスト版『めまい』だ」― LA Weekly
「鋭くて、獰猛」― Guardian
「70年代後半から80年代初頭にかけての女性運動に連動した映画作家たちによる反ポルノや反構造の物語とは異なり、ゴードンとアッカーは、家父長制に支配された芸術(映画であれ文学であれ)をそれ自身のメカニズムを武器として使用することで転覆させ、それによって女性たち、彼女たちの物語と彼女たちの欲望に力を与える言説を作り出そうとした。」― Diana Drumm,CINEASTE

エンプティ・スーツケース Empty Suitcases 1980/米国/52分 国内劇場初公開
監督:ベット・ゴードン/撮影補:デヴィッド・ワーナー/録音補:ヘレン・カプラン/脚本補:カリン・ケイ/出演:ローズマリー・ホックシールド、ロン・ヴォーター、ヴィヴィアン・ディック、ナン・ゴールディン、ヤニカ・ヨーダー、ジェイミー・マクブレイディ、ベット・ゴードン/声:リン・ティルマン、カリン・ケイ、アネット・ブレインデル、ドロシー・ザイドマン、マーク・ハイドリッヒ

職場のあるシカゴと恋人がいるニューヨーク。2つの都市を行き来する女性が抱える疎外感と孤立感が考察される実験的作品。写真家ナン・ゴールディンや映画作家ヴィヴィアン・ディックなど「ノー・ウェイヴ」周辺のアーティストが出演。国際映画祭などで上映され高い評価を得た。

エニバディズ・ウーマン Anybody’s Woman 1981/米国/24分 国内劇場初公開
監督:ベット・ゴードン/出演:ナンシー・レイリー、スポルディング・グレイ、マーク・ハイドリッヒ、トム・ライト/ナレーション:カリン・ケイ

長編『ヴァラエティ』に先駆けて、ニューヨークのポルノ映画館「Variety」を舞台に作られた短編作品。タイトルは、サイレント期から活躍した女性映画監督ドロシー・アーズナーによる1930年製作の同名のハリウッド映画作品(日本では『夫なき妻』のタイトルで公開)に由来する。

ベット・ゴードン BETTE GORDON

1950年6月22日生まれ。アメリカ合衆国のインディペンデント映画の先駆者であり、1970年代末から80年代にニューヨークのアンダーグラウンドで起こった音楽やアートのムーブメント「ノー・ウェイヴ」周辺で活動した映画作家。セクシュアリティ、欲望、権力に関するテーマを大胆に探求。長編第一作『ヴァラエティ』 (1983) は、カンヌ国際映画祭「監督週間」で上映された。いくつかの監督作品は、ホイットニー美術館、ポンピドゥー・センター、ベルギー王立映画アーカイブ、英国映画協会、MoMA、アンソロジー・フィルム・アーカイブスの常設コレクションに収蔵されている。ウィスコンシン大学マディソン校にて学士号、修士号、芸術修士号を取得。現在はコロンビア大学芸術学部映画学科で教鞭を取っている。

上映情報

ベット・ゴードン エンプティ ニューヨーク
2024年11月渋谷シアター・イメージフォーラム、今冬大阪シネ・ヌーヴォほか全国順次ロードショー

配給・宣伝:プンクテ

公式サイト punkte00.com/gordon-newyork/

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